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私が携帯ショップの店員として働いていた頃、最も苦手としていた通信キャリアはDDIポケットでした。
理由は非常に単純で、機種名が覚えづらく、お客様に説明するのが難しかったからです。
こちらに弊社ホームページのDDIポケットのコーナーを載せました。詳しくは中をご覧いただきたいですが、「KX-PH21F」とか「AH-K3001V」とか「PS-C1」とか「DL-B01」とか、一体どういう規則性があってどういう時期に発売されたどういうメーカーのどういう性能の商品なのか、最後の最後までさっぱりわかりませんでした。
販売員の感覚として、自分の知識に不安のあるキャリアや商品をお客様に勧めづらくなるのは当然のことでして、ですから私は生涯でDDIポケットの商品を販売した経験が、本当にごく僅かしか無かったように思います。
最盛期のユーザー数はDDIポケットもツーカーもさほど変わりませんが、私が販売した件数で言えばゆうに10倍は違っただろうと記憶しております。
DDIポケットのサービスそのものは非常に優れていたと思うのですが、それが消費者に受け入れられなかった最大の理由は、この著しいわかりにくさだと言っても過言ではなかったと、私は今でも思っています。
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では他のキャリアはどうだったかと言えば、DDIポケットほどではないにしても、決してユーザーライクなネーミングをしていたとは言えなかったと思いますが、その中ではドコモが一番マシな部類でした。
ムーバ時代のドコモには「50Xシリーズ」と「20Xシリーズ」の2系統がありまして、お客様からこの2系統の何が違うのかよく聞かれたのですが、これは非常に単純で「50X」が高機能で「20X」が低機能であるという伝え方が出来ました。
その割にカメラ付き携帯を「20X」から出し始めたりと一部矛盾する時期もありましたが、大枠としてはそれで充分伝わりました。この棲み分け方はFOMA時代になっても「90Xシリーズ」と「70Xシリーズ」という形で受け継がれました。
ドコモが延々と高いシェアを守り通せた理由の一端も、こういう部分にあったのではないでしょうか。
その点、auは酷かったという記憶があります。
IDOとDDIセルラーが合併する前後くらいの機種は「C401T」のような若干ドコモを意識したような機種名でいったかと思うと、数年後には「A3012CA」とか「C5001T」とか、普通の消費者にはいまいち違いのわかりにくい、DDIポケットっぽさが顔を覗かせ始めます。そしてこの4桁数字の型番を使い始めた頃、ついに市場シェア2位の座をJ-PHONEに譲り渡すこととなりました。
このわかりにくい機種名はDDIの遺伝子が勝手にそうさせてしまうのか?と疑ってしまうような、そんな感じもします。
ただし、これには一部例外が生まれました。おなじみ「INFOBAR」です。初代INFOBARの正式な型番は「A5307ST」というのですが、この型番をしっかり覚えている人などもはや数百人くらいしかいないのではないでしょうか。しかしながら、INFOBARという名前は立派なブランドとなって、今でもたまに新シリーズが発売されたりもしております。
その後auが二匹目のドジョウを狙ったような形で世に送り出した「talby」もなかなか秀逸な商品でしたが、こちらは新シリーズが発売されたという話は聞かれずじまいです。ただし、モックの人気はいまだに健在で、海外からの引き合いもINFOBARと同様に結構高いものがあります。
auと市場シェア2位の座を争っていたJ-PHONEはどうだったかと言いますと、素直にドコモの型番ルールを見習ったのでしょう。「J-SH51」と「J-SH08」のような、50番代と00番代の2系統という方向性を打ち出しました。
この2系統の他にレアキャラの30番代が数機種リリースされましたが、これは「シンプルフォンシリーズ」という、率直に言って普通のガラケーとあまり使い勝手が変わらないけれども、液晶に表示される文字が大きいとか、そういう理由でご年配のお客様にお勧めするべき商品が登場しています。
あくまで中の人の感覚としてはドコモに近い型番ルールなのでわかりやすい方だと認識していましたが、それが消費者に好意的に受け止められていたかどうかは微妙な所でしょう。
東名阪地域以外に居住されている方にはいまいち聞き覚えがないかもしれませんが、「ツーカーセルラー」「ツーカーホン」という携帯キャリアもありました。
ツーカーセルラー - 保土ヶ谷モックセンター (Page 1)
このキャリアの型番ルールは、機能の高低によるクラス分けが存在せず、発売された順番にひたすら並んでいくという仕組みです。ですので、ツーカーでおなじみの京セラ端末は「TK01」「TK11」「TK21」という具合に、年毎に十の桁が増えていくという風になります。
機能の高低によるクラス分けがありませんのでお客様から違いを聞かれたら1機種ごとに説明しなければなりませんが、そもそもそこまで関心を持たれるような人気のあるキャリアではありませんでしたので、説明で骨を折った記憶はありません。
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あの頃と比べると、今の携帯電話は本当に覚えやすい名前になりました。
お客様からの問い合わせ電話でも具体的な機種名を仰って頂けるようになりました。「iPhoneはありますか?」「Xperiaの新しいモデルはありますか?」という風に、特に詳しいわけでもない方からでも具体的な商品名を言って頂けるようになったのは大変画期的なことです。
ですが、私からすると、相変わらず意識が古いままだと否定的な印象が拭い去れないメーカーが2つあります。それは富士通さんとシャープさんです。
hodogaya-mock.ocnk.net
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「ZETA」と「EVER」をそのまま使いまわす神経がわかりません。ソニーやサムスンのように「ZETA 1」「ZETA 2」と数字を振るなどして違いを際立たせる事もしないとは、怠慢にも思えます。富士通さんもこれと同じことをやっています。
なんとなく、理系人間の傲慢さがにじみ出ているように思われてなりません。「良いものを作ればわかってもらえる」とでも言いたげです。
ですが、それが世の中に浸透していないのは、この2社の市場シェアを見れば明らかです。
富士通さんとシャープさんに対し、私は声を大にして言いたいのです。きちんとした名前をつけて下さい。マーケティングにきちんと本腰を入れて下さい。これでは外国メーカーに食われて終わってしまいます。
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iPhoneが日本で飛び抜けて市場シェアが高い理由は、これまで過剰なまでにキャッシュバック競争を繰り広げてきた効果も少なくないでしょうが、それ以上に、ある意味文系人間的なイメージ戦略が功を奏しているように思われてなりません。
消費者にモノやコトをイメージさせる事において圧倒的に他社をリードしてきたからこそ、今日の市場シェアがあるように思われてなりません。
わかりにくい商品名ではイメージさせる所ではありませんので、関係各位におかれましては、人に覚えてもらう努力を、より一層深掘りしていただきたいと、そのように申し上げたいと思います。
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