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シャープさんが現在絶賛発売中の新製品の名前は「AQUOS zero5G Basic DX」だそうであります。
「太陽神戸三井銀行」や「三菱東京UFJ銀行」のような壮大な世界観を感じさせる、味わい深いネーミングだと思いました。
初代のアクオスゼロはゲーミングスマホ的な、要するに非常に性能が高いのだという風に言っていたと思うのですが、今回はそのシリーズに「ベーシック」というサブタイトルが付き、さらにさらにDX(デラックス?)まで付けてしまって、もう何がなんだかわかりません。
基本的で高級なアクオスゼロという風に解せよ、という事でしょうか。
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シャープさんがホンハイさんの傘下に入る前も、商品のペットネームが戦国時代の様相を呈しており、覚えるのにたいそう難儀したものでした。
「LYNX」と名乗ってみたり
「GALAPAGOS」と名乗ってみたり
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「AQUOS PHONE」のあとにアルファベットをつけてみたり
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アルファベット2文字を止めて「ZETA」とか「EVER」とか「SERIE」をサブタイトルにしてみたり。
まさに群雄割拠、戦乱ここに極まれりという様相だったのを、ようやく2017年に天下統一を果たしたのが「R」だったわけであります。
しかし、泰平の世も長くは続かなかったようで、「K」が出てきたり、「sense」が出てきたり、「ZERO」が出てきたり、そうかと思えば今度は「AQUOS zero5G Basic DX」だったわけですから、シャープさんには何かしらそういう下剋上の気風みたいなものがDNAレベルで備わっているのではないかと、疑わずにはいられません。
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日本の携帯電話メーカーは、1990年代から2010年頃までのかなり長きに渡って「N905i」のようなアルファベットと数字を組み合わせた型番をそのまま商品名として携帯屋さんの店頭に並べ続けました。
NTTドコモが標榜するシリーズとしての「ムーバ」や、DDIポケットの端末メーカーが「ル・モテ」や「キャロット」といったペットネームを付けた事例、それにauのデザインシリーズ(INFOBARなど)、それにドコモやボーダフォンが追随した事例がありますが、INFOBAR以外には長続きしておらず、ほとんどの場合、アルファベットと数字を組み合わせた味気ない型番を、そのまま商品名であるかのように打ち出して販売現場に送り出されています。
そしてそういった日本国内の携帯電話業界で続けられてきた商慣行に一石を投じる存在となったのが、皆様よくご存知のiPhoneでありまして、iPhoneが世界を席巻するやいなや、日本の携帯電話メーカーも慌てて追従し、ペットネームをつける意味合いや意義、理念を深く考えるまでもなく、今日に至ったという風に、私は解釈をしております。
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「N504is」とか「A3012CA」とか「J-SH07」といった型番でも、わかる人にはわかるのです。
ですが、わかるのは極一部であって、その他大多数の耳に入っても、ものの数分もすればどこか彼方へ雲散霧消してしまうような、極めて記憶に残りにくい記号みたいなものでしか無いわけです。
車が好きな人は「ハチロク」と聞いただけ、鉄道が好きな人にとって「デゴイチ」と聞いただけで様々なものが脳裏に思い描かれるのでしょうが、造詣がない人間にとっては無機質な記号に過ぎないわけでして、やはり幅広く大衆に親しんで頂くためには「iPhone」のような覚えやすいペットネームが必要なのだと、天才ジョブズは考えたのではないでしょうか。
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その天才ジョブズが生み出したiPhoneも、ジョブズ亡き後、だんだんおかしな方向へ向かっていると、私は感じています。
「iPhone11」「iPhone11Pro」「iPhone11ProMAX」「iPhoneXs」「iPhoneXsMAX」「iPhoneSE」
「SE」だけは少し控えめなモデルであるという風に私も理解しておりますが、あとの区別はさっぱりわかりません。
急行と各駅停車の2つしか無かった頃の東横線で高校に通っていた私が、「特急」「通勤特急」「急行」「準急」「Sトレイン」「各駅停車」で派手に枝分かれした現代の東横線で混乱した、あの時のような感覚であります。
このわかりにくさ、ジョブズさんも草葉の陰で悲しんでおられるんではないかと、私は思うのです。
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昨今携帯電話業界のみならず世間を騒がせている携帯電話の料金問題においても、大多数のユーザーが携帯電話契約のイロハのイも理解していない事実が明らかとなっています。
1円でも節約したいと日々工夫に工夫を重ねる日々を送っている方々が、MNOキャリアで毎月1万円近く使っているという話もあれば、コロナ禍のテレワークや在宅授業であっという間にギガを使い果たしてしまう若い人の話がポンポン出てくる一方で、MVNOや民泊Wi-Fiを上手に使う人が希少な存在であるというのが、我が国の情報通信に関するリテラシーの本当の所なのであります。
そして、大多数がそういった状況であると眼の前に突きつけられている中において、果たして「AQUOS zero5G Basic DX」などという、村上春樹レベルの難解な世界観を押し付けている場合では無いだろうと、私は思うのです。
どうして賢い人達は、それを理解してくれないのでしょうか。
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シャープさんはこの際、「レクサス」みたいなわかりやすい高級ブランドと、トヨペット店みたいな大衆向けブランドを分けて、それぞれの市場にマッチした、細かいマーケティングをやるべきではないだろうかと、私は考えています。
いや、シャープさん以外にもソニーさんが手掛けても富士通さんが手掛けても良いですが、もうちょっと「わかりやすさ」をじっくり分析してみてはどうかと思うのです。
「ベンツ」や「レクサス」みたいな高級品のお店にはわたくしのような中古車しか買ったことがないような人間が近づいてはいけない雰囲気があって、それもまたある種のわかりやすさの裏返しでもあるわけでして、そういった人々の層にいくつか分類を分けて、それぞれのわかりやすさを極め、打倒アップルを目指していくべきではないでしょうか。
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日本の携帯電話業界はわかりやすさを軽んじる風潮が、まだまだ根深いように感じています。
どうか偉い人の皆様方に、この願いが通じれば良いなと、私は願わずにはいられません。
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