MNOキャリアとしての楽天モバイルの第一歩が踏み出されました。
まだ無料モニターですので本格始動とは言い難いですが、かつてのアイピーモバイルのように稼働前に潰れてしまった携帯キャリアがあったのと比べれば、まずまず無難な船出と言えるのではないでしょうか。
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さて、これまで我が国にはいくつもの移動体キャリアが存在し、そのほとんどが市場競争に敗れて、姿を消していきました。
それでもなお政府は第4の携帯キャリアという夢を追い求め、そしてこの度、その夢にお付き合いする楽天という会社が現れました。
率直に言って私は、懲りない人達だなぁと、冷めた目で見守っております。
市場が活性化すれば私共にとってもメリットのある話ですが、前回2005年頃から始まった第4の携帯キャリア参入シリーズ(イーモバイル、ソフトバンク、アイピーモバイル)の時に政府がこれらのキャリアを保護しようとしたのが仇となって市場が急速冷却された恨み辛みがまだまだ脳裏に根深く残っておりますので、「市場活性化に期待!」みたいな無邪気な気持ちにはなれないのです。
目下のところ楽天は自前のエリアネットワークを大都市圏で少しづつ構築している段階のようですが、とりあえず政府の顔を立てる意味で多少のエリアカバーを広げるにしても、設備投資はそこそこに抑え、なるべくauとのローミングでうまく誤魔化していくのが成功の秘訣なのではないだろうかと、私は考えます。
あまり設備投資を頑張りすぎて兆単位の負債を作りますと、楽天本体の経営自由度を大きく損ねるでしょうし、我が国経済への悪影響も気になる所です。ですから、あくまでインフラ投資は程々に頑張って頂ければという風に考えております。
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さて、冒頭に私と同い年の大スター浜崎あゆみさんの写真をドドーンと持ってきたのは、言うまでもなく、かつて第4の携帯キャリアとして存在したツーカーセルラーについて語りたいから、であります。
ツーカーセルラーは関東と東海エリアを基盤に活動していた携帯キャリアで、関西では「ツーカーホン関西」という名前で、ツーカーセルラーと同じような事業を営んでおりました。
両社は資本構成が若干違い、開業した当時の郵政省(現在の総務省)が「携帯電話キャリアは基本3社、東名阪だけもう1社作っても良い」とお達しになられた事から、上位3社と違って、東名阪だけ社名を名乗って営業していた、という存在でありました。
それ以外のエリアではJフォングループのネットワークにローミングする事で成り立っておりました。
つまり今の楽天モバイルと非常に似たようなスタートラインから始まった携帯キャリアでして、上位3社と比べて料金はいくらか安かったものの、創業当初の「通信エリアが狭い」「電波が弱い」という風評が最後の最後まで拭い去れずに、結局auに吸収される形で市場から姿を消す運命となりました。
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ツーカーの電波が当初弱かったのは紛れもない事実でした。いわゆるプラチナバンドのドコモやauとは違い1.5G帯の周波数を使っているため、エリアカバーとは別に電波特性の面でも不利な戦いを強いられました。
しかしながらツーカー陣営も手をこまねいていたわけではなく、かなり几帳面に電波状態の向上に努めていて2000年代初頭には、同じ1.5G帯を使うJフォンと比べて差がないくらいの使い勝手になっていたものの、それまでの間にねっとりとこびりついてしまった風評を払拭する事が出来ず、支持を集めることは叶いませんでした。
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当時既に携帯電話業界で働く身となっていた私は、ツーカーの中の人々がいつも熱っぽく電波向上への思いを語っているのにほだされ、自らもツーカーを契約して実際の電波強度を確かめる事にしてみました。
すると、当時圧倒的な支持を集めていたドコモと比べて特に不自由に感じる事はなく、むしろ繁華街で輻輳気味のドコモよりも快適なくらいでした。
それでいて料金は多少安く(おおむね1割から2割)済むわけですから、私が勤める携帯ショップでお客様から「とにかく料金が安いのが良い」と所望されれば最初にご提案するのはツーカーとしていました。
しかしながら、あれだけ安いのが良いと言っていたどんなお客様も大抵はツーカーを避け、ドコモと大して料金の変わらないJフォンあたりでお茶を濁していくパターンがほとんどでした。
いくら理屈で説明しても「安いのが良い」という人ほどなぜかツーカーを避けるという傾向があって、要するにそこは理屈ではないのだという一般消費者向け商売の難解さを強く印象付けられたものでした。
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携帯電話業界で働くようになってそれなりの期間が経た私は、ある種の達観にも似た境地に達しました。
それは、一般消費者に対してより良い営業成績を収めるためには、ある程度誠実さを犠牲にしなければならない。いや、誠実さはかえって邪魔でさえある、というものです。
そもそも携帯電話業界というのは、一般消費者に近い部門、近い会社ほどお客様に対する不誠実さを増していく、嫌な傾向が昔から続いていたと思い起こされます。
例えば「エリアカバー率」という言葉があります。携帯電話が普及し始めた頃は各携帯キャリアがこぞってエリアカバー率なる数字を競うように発表していたものですが、「エリアカバー率99%」と謳う割には繋がらない場所が結構あったりしたものです。各社が自らのサービスを良く見せようとして妙な内部基準を設け、それで自慢するという不誠実な状態が10年以上続いたわけです。
エリアカバー以外にも、例えば
月々1980円!(最初の1年だけ)
みたいなものは今でもありますし、ごく最近総務省や消費者庁から物言いがついた半額なんとかの件もそうですが、要するにそうやって不誠実に誇張した宣伝をする風土がこの業界全般にあるのがわかると思います。
そういった中において、ツーカーは割とストイックに愚直に営業展開するような傾向があって、それが結局数字の伸び悩みに繋がったのではないだろうかと私は思うのです。
要するにこの業界は誠実に論を尽くして売ろうとしてもダメで、むしろ嘘をついたものが勝つ、そういう場所なのであります。
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先に触れたツーカーもそうですし、イーモバイルやウィルコムについても比較的真面目に、誇張の少ない宣伝をやる会社だったなぁと思い起こされます。
その点楽天はいかがでしょうか。企業風土的には現在の携帯業界に馴染みそうといえば、確かに馴染みそうな感じのする会社ではあります。
ですからツーカーやイーモバイルと比べればいくらか成功しそうなムードはあるのですが、、、、
あるのですが、、、、
果たして日本の消費者はそれで良いのか?それで嬉しいのか?
という点に疑問を持たざるを得ません。
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来年の東京五輪が終わって少し経った位の時期から、急速な景気後退局面が来るだろうと私は予測しております。
東日本大震災と東京五輪の公共工事がおおよそ片付き、消費増税のポイント還元も数ヶ月前に終わり、それらの穴を埋める好材料に乏しいからであります。
そしてそのタイミングで消費者の節約志向がより一層強まっていくと思いますので、楽天モバイルの本格的な商機はそのあたりから始まるのかなと見ております。
もちろんそれは格安SIM(MVNO)各社にとっても同じことが言えるので、それまでに我が国の一般消費者の傾向を正しく捉えて、しっかりと顧客獲得に繋げていく必要があろうかと思います。
不誠実な営業活動を促進するつもりはありませんが、しかし多少そういった事を頭の片隅にでも置いておきませんと、ツーカーやイーモバイルの教訓が活かされませんので、申し上げておきたいと考えた次第であります。
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