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政策には本音と建前があるものです。
政府がオリンピックをなんとか開催しようと必死な理由が、アスリートの為とかコロナ収束の証とかを求めているのでは無い事くらい、中学生にもわかると思います。
それと同様で、この度政府が打ち出してきたSIMロック原則禁止の狙いは、政府の建前としては「のりかえ推進」であるという風に伝わっておりますが、本当の狙い、本音がそうであると額面通りに受け取るのはいささか難しいわけであります。
が、今回は邪推せずに額面通り「のりかえ推進」であると受け止めた上で、しかしその狙いは達せられないどころか、むしろ遠ざかるであろうという私の読みについて書いていきたいと思います。
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SIMロック禁止で生じる影響の最たるものが、端末販売価格の上昇であります。
携帯キャリアは通信料金で回収する狙いがあるからSIMロックという名の保険をかけた上で安売りをするわけでして、SIMロックという保険がかけられないならば、もはや安売りは不可であります。
だからスマホにせよガラホにせよ値段が高くなるのが既定路線であります。
そして、端末価格が上昇するとのりかえ推進どころかのりかえが停滞するというのが、菅総理が総務大臣時代に発した規制が実施された2007年から2008年にかけて、実際に起った事態でありますから、また同じ轍を踏むでありましょう、と私は申し上げたいのです。
そしてそして、のりかえが停滞する事によって、加入者を増やさないと収益ベースに乗っけられない状態にあった弱小キャリアであるウィルコムとイーモバイルが事業継続を断念してソフトバンクグループの軍門に下ったというのも、紛れもない事実であります。
今回は前回と違って同じ轍は踏まないのだとすれば、政府はその根拠をもっと納得ある言葉で説明するべきですが、マスコミの皆様方が深堀りしないからなのか、これといった説明もなく、粛々と前へ進んでいってしまっているのが現状なのかな、というのが私の現状認識であります。
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菅政権のタスクフォースは端末をそのまま、SIMカードを差し替えるだけでキャリアを移行出来る仕組みを、かなり過大評価しているように、私は感じます。
「eSIM」をずいぶん御気に召しておられるように見えますが、それもその流れがあるからこそ、でありましょう。
ですが、総務省の官僚の皆さんや政府の有識者会議やタスクフォースの皆さん方は、多くの消費者の認識がSIMカードを使ったキャリア移行の方法など眼中になく、もっぱら「乗り換え=端末購入」であるという現状から目を背けているように思われてなりません。
かつてMVNO各社がSIMカードのみ提供を本流として、端末販売を軽視していたのが、結局ほとんどのMVNOがMNO並みに端末ラインナップを拡充させるようになったのも、多くの消費者の認識が「乗り換え=端末購入」だという事にMVNO各社が気付き、方向転換したからであります。
楽天モバイルのキャリアショップで店長を務める知人によれば、先般の料金値下げを機に売上が急激に伸びているが、ほぼすべてのお客様が端末をセットで購入しているとの事であります。
楽天の場合は周波数の対応バンドの難しさも端末を購入される理由として挙げられるとは思いますが、そもそも対応バンドが云々というのを認識した上で消費行動を取る一般ユーザーはそれほど多くはありません。
ドコモやauのオンライン専用プランが初動からかなり良い数字が出ているのも、言い換えれば端末を買わず、変えずに済むという消費者の意識があっただろう事は容易に想像できると思います。
要するに、政府に本気でのりかえ推進を図っていく気構えがあるのであれば、端末を高く売らざるを得ないように仕向けるこれまでのやり方を白紙撤回し、それこそSIMロックを認め、端末0円販売も許容するくらいの市場開放を実施し、端末を売って、それに伴ってのりかえを推進していくといった方向転換をする必要があるのではないでしょうか。
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安倍政権から菅政権へバトンが受け継がれるのかと思いきや、自動車の分野では水素推しを止めて電気推し一本槍になってトヨタが大慌てさせられたり、携帯の分野では格安スマホ(MVNO)と新規参入の楽天推しだったのを止めて大手MNOキャリア推しになってしまったりと、数十兆円規模の市場を持つ日本経済の肝の部分をずいぶん気軽に振り回して下さっているな、と辛い気持ちで状況を見守っています。
ただでさえコロナ禍でとことん痛めつけられた日本経済を、今後どうしていこうというのか。
不安の種は尽きることがありません。
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