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国がかなり熱心に推し進めている回線と端末の分離について、私は冷ややかな目線を送っております。
まず何より、消費者の利害を全く考えずに、偉い人達のエゴが推し進められていると感じるからです。
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かねてより、日本の携帯電話業界は消費者に対して非常に過保護にやってきたと思います。
何かあればとりあえずキャリアショップに駆け込めば何とかなるという仕組みが20年ほど続き、消費者もそれを当たり前と感じています。
昨今のキャリアショップは端末の使い方説明で忙殺されて、待ち時間がとても長く、だから予約性を取り入れろと言い出したのは、他ならぬ政府であります。
つまり、日本の消費者の携帯電話に関するリテラシーは、おおむね政府も承知している通りなのであります。
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弊社はモックアップの販売を行って10年になりますが、その前や同時期、そして最近また中古端末の販売を行っております。
中古端末の販売を行っているとヒシヒシと感じるのが、あまりリテラシーの伴わない消費者の多さ、であります。
こちらは弊社がメルカリで販売しているキッズケータイの中古端末について寄せられたお問い合わせで、ご質問下さったのは小さなお子様をお持ちの若いお母さんとおぼしき女性となるわけですが、ご覧の通り、ショップに持ち込むというフレーズが飛び出しております。
中古端末ですから、既に利用しているSIMを旧端末からこちらへ差し替えるだけで利用できます。まだ回線をお持ちでないなら、中古端末など買わずに新品で契約したほうがコスパ的にも精神衛生上も良いわけですから、つまり、これを持ってキャリアショップに行く経済的合理性は無い、と断言できます。
しかしながら、恐らく私より若いであろう消費者でさえも、とりあえずキャリアショップに行くという発想に結びつくようなリテラシーしか無いと言えるわけで、こういう空気感を常日頃から感じているわけです。
昨年の暮れにはこういう話題もありました。ソニーのiPhoneを求めるメジャー級の消費者はさすがにそこまで多くはないと思いますが、メジャーにあと一歩の3Aクラスの消費者は結構な数に及ぶだろう事は明白であり、果たして、政府の言う通りに端末と回線の分離を推し進めた場合、こういった消費者のフォローを一体誰が受け持つのか。そういう所まで思慮が行き届いていないのでは?と、私は懸念しているのです。
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らくらくホンを始めとした高齢者向け端末、および高齢の消費者に向けたフォローにも懸念が残ります。
消費者からの問い合わせにおいて、回線の問題なのか端末の問題なのかしっかり調べてみないとわからない事も、少なくありません。
とりわけ高齢の消費者に、回線の問題と端末の問題とを切り分けて考える事を求めるのは非常に困難で、「それはキャリアの問題じゃないからメーカーに問い合わせて」「それはメーカーの問題じゃないからキャリアに問い合わせて」と、たらい回しになるような事態が相当増えて、最終的に消費者生活センターの仕事を増やすのが目に見えています。
ですから現状のように、端末と回線をまとめてキャリアで一括してフォローしていく現状の仕組みは極めて理に適っているわけですが、それを無理やり引き裂こうとする理由は一体何でありましょうか。
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日本の携帯電話のARPUは海外に比べて高い、とか、欧米のように端末と回線の分離をせよ、といったような、今更になって海外のやり方に歩幅を合わせる事を政府は立て続けに求めてきているわけですが、そのメリットの無さ、弊害の大きさなどが充分鑑みられていないと、私は感じます。
そしてなにより、もう一度この記事のリンクを貼った上で申しますと
>菅義偉官房長官が携帯ショップについて「手続きに時間がかかりすぎる」と述べました。
菅官房長官が総務相だった時にゴリ押しした分離プランのせいで手続き時間が増えたというのに、まるで他人事のように言ってのける、この支離滅裂さが全く理解できません。
ましてや、昨今の法改正でまた新しく手続き時間を伸ばす施策を押し付けられているのです。
この官房長官の言い分にまともにお付き合いしていたら、携帯業界に携わる人々の寿命を何年縮めば良いのかわかりません。人生100年時代と言われる昨今、携帯業界の人だけは人生70年時代に逆行させられるのではと、心配が募ってくる、と言わざるを得ません。
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こんな事に時間を費やして、一体誰が得をするのでしょうか。
端末と回線の分離が必要な人は、それならそれでシムフリーのスマホを買って回線を自分の好きなキャリアで契約すれば済みますので、既に環境は整えられています。
端末と回線の分離が必要ない、もしくは分離されると非常にまずいことになる人にそれを無理強いするのは、デメリットしかありません。
ですから私はこの一連の動きを冷ややかに見ているのです。
この度の一連の動きは既に法律が成立し、実行に移されますので、それによって大きな弊害が生じて阿鼻叫喚の有様を呈した折には、しっかりとその責任を取っていただきたいものだと、そのように感じている次第であります。
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参考に