2018年に日本初進出を果たしたOPPOに続き、昨年末にはシャオミが日本初進出を致しました。
中国メーカーでは2007年以降にファーウェイ、ZTE、ロングチアなどの先行グループが日本進出を果たしてからも日本市場を目指す企業が続き、その中にはファーウェイのように日本メーカーのシェアを奪い取るくらい強大になった会社もあれば、近年はめっきりご無沙汰の会社もあるなど悲喜こもごもではあるものの、我が国は依然として何かしらの魅力を感じさせる市場であるらしい、という雰囲気が伝わってまいります。
また、中国以外でもアジア系の端末メーカーが日本市場を目指す事例が非常に多く、韓国からは今はなきパンテックが2005年、サムスンとLGが2006年に日本進出を果たし、台湾からはHTCが2006年、インベンテック(英業達)が2010年、ASUSが2014年にそれぞれ進出しております。
ノキアやモトローラのように前世紀の第一世代の端末やインフラから日本に進出していた会社はともかく、ここ十数年あまりで市場も成熟して、場合によっては旨味に乏しいように見えなくもない我が国市場をわざわざ目指す意図はどこにあるのか?を考えてみたいと思います。
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海外の端末メーカーが日本でスマートフォンを売る上において障壁となるポイントは、「MNOキャリア」と「日本語」の2つに要約されるのでは、と私は考えます。
こちらの記事によれば、我が国のスマートフォン市場におけるSIMフリー機の割合は10.7%でしかなく、前年同期比もわずか1%の伸びに留まっております。
とするとやはり日本である程度の台数を捌こうとすればドコモauソフトバンクのMNOキャリアに取り扱ってもらうのが常道となるわけですが、MNOにはMNOでiPhoneをたくさん売り捌かなければならない課題があり、そのせいかアップル以外のメーカーをこれ以上増やすことにそれほど強い意欲があるようには感じられません。
ただし、KDDIにおけるUQモバイルやソフトバンクにおけるワイモバイルのようなサブブランドにおいてこれらのメーカーが食い込む余地はわずかながら残されていて、UQがAlcatelやOPPOを取り扱ったような事例を参考に、そこを目指していくという方向性もあるにはあるでしょうが、いかんせんパイがMNO3社と比べて小さいため、せっかく頑張ってその座を掴んだ所で、果たしてどれほどのメリットがあるのか?という問題もあろうかと思います。
言語の問題は端末そのものの対応に関してはソフトウェアレベルで解決出来るのでそれほど重大ではないでしょうが、課題はアフターサービスです。コールセンターや販売チャネルの管理をやるための仕組みを日本独自に構築しなければならず、このコストが馬鹿になりません。
これが英語圏に物を売るのであれば英語圏のどこか1カ国でまとめて対応する事も出来るでしょうが、日本語を公用語としているのは日本だけですから、なかなか大変です。
ですから日本に総代理店でも設けて、自らは日本支社を置かずに自国で遠隔的に見守るというやり方を取るのが最も無難に思えるのですが、OPPOにしてもシャオミにしても日本にきちんと支社と人材を置いてリスクを取りに行く姿勢ですから、これはなかなかのものです。一体彼らは何を求めているのでしょうか。
2019年度トータルのスマートフォン出荷台数は恐らく2500万台前後に留まり、なおかつシムフリーはその10%しか無いので全メーカーを合わせても250万台程度で、MNOキャリアに取り扱ってもらえる可能性も低いとなれば、じゃあなんでそこまでして日本を目指すのか?という疑問に結びつくのが当然の帰結ではないでしょうか。
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これはとあるアジア系端末メーカーの中の人から直接聞いた話ですが、そのメーカーが日本市場に進出した理由は2つあって、1つは、日本人は黄色人種のトレンドリーダー的な存在であるからという概念的な問題で、もう1つは、過去に携帯電話の世界に起きたブレイクスルー的な出来事の多くが日本発祥だから、というものでした。
最初に触れた黄色人種のトレンドリーダー的云々というのは、日本市場で認められる事が、しいては中国や韓国や台湾の人々にとってある種のブランドになる、という趣旨で、近年巷に溢れかえっている「日本スゴイ!」的な事を私が個人的に言いたいわけではもちろん無く、とにかくそういうムードがあるという事だそうでした。
私は日本人で、目下のところ外国人との関わりが非常に少ない環境におりますので、率直な感想としては中国や台湾や韓国の人々が日本をそのように見ていると言われてもピンと来ないのですが、携帯電話の利活用について言えば多少進んでいたのは事実ですので、「まぁそういう事なんですかね?」という結論に落ち着きました。
もう1つの携帯電話の世界に起きたブレイクスルー云々に関しては、これは確かにそうだと感じました。
大きなトピックで言えばiモードや着信メロディ、待ち受け画面、写メールなどの携帯電話の歴史を大きく動かした出来事は、ほぼ日本発祥であります。
携帯電話にブラウザを載せる発想は世界にもあってWAPという共通規格も作られたものの、しかしドコモは独自に始めたiモードにおいてWAPとは全く異なるコンパクトHTMLという仕組みで暴走して、結局こちらがデファクトスタンダードになってしまったわけです。
いまだかつて日本が世界の共通規格をちゃぶ台返しにして自らデファクトスタンダードにのし上がった事例など存在するでしょうか。この強烈なパワーは日本の携帯電話業界ならではのもので、だからこの日本市場で新たなブレイクスルーを共に起こそうとして海外の端末メーカーが日本を目指しているんだと言われますと、それはそれはとてもエキサイティングですし、なるほどと頷かされたのでありました。
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今のスマートフォンの原型はほとんどiPhoneといって差し支えないと思いますが、そのiPhoneは第2世代(2G)のGSMのインフラで動かす事が前提で作られたものが最初で、その後に3Gや4G、そして今度は5Gだぞとインフラがどんどん更新されて高機能化していったわけですが、しかしながら、2Gで動かす為に作られた頃のiPhoneと比べて、使い道に大した進歩が見られないという風に私は感じております。
インフラが高機能になった恩恵で写真も動画もアプリも大容量化している事は確かですが、ただ大きくなっただけで、ブレイクスルーが無いじゃないか、と感じております。
そしてそのブレイクスルーが無い手詰まり感みたいなものを海外の端末メーカーも薄々感じていて、そのブレイクスルーを得るためのキッカケとして、わざわざ儲からない日本市場に参入してきているのではないか?という事を、当初に私が感じた疑問に対する現段階の結論として提示したいと思います。
日本市場には売上だけでは推し量れない何かがある。
だから海外メーカーは日本を目指しているのではないでしょうか。
ではその海外メーカーを迎え入れる我らが日本市場は、世界にどのような答えを出せるでしょうか。どのようなブレイクスルーを提示できるでしょうか。
日本市場の復権は、まさにそこに懸かっていると申し上げたいと思います。
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